文学部Faculty of Letters

〈社会を開く、自分を開く〉
■パスカルの〈繊細の精神〉vs〈幾何学の精神〉の対比を、〈開いた魂〉vs〈閉じた魂〉に置き換えて、現代における〈開いた社会〉vs〈閉じた社会〉の問題を論じたのが、ベルクソンの『道徳と宗教の二源泉』（1932）です。
■〈閉じた社会〉は、それが〈よい社会〉であるとしても（〈よい社会〉であればあるほど）、構成員の画一化に、また他の社会の排除に向かいます。〈よい社会〉の〈よい子〉圧力は、〈悪い子〉を謝絶し、〈よい大学〉、〈よい会社）へ進むようにと私たちを圧し続けます。このような圧力の出所はどこなのか。この圧力を免れる道はあるのか。それを免れる〈開いた社会〉とはどんな社会なのか。これらが問われる問いとなります。
■カント、ヘーゲルを生んだ理性の国であるドイツが、〈閉じた社会〉としてナチスの全体主義に全面的に屈していくその只中で書かれた『二源泉』は、次の言葉で閉じられます。「人類は今、自らのなしとげた進歩の重圧に半ば打ちひしがれて呻いている。しかも人類の将来が一にかかって人類自身にあることが、充分に自覚されていない。まず今後とも生き続ける意志があるのかどうか、それを確かめる責任は人類にある」。AI圧力さえ加わる今日、私たちに〈閉じた社会〉を破る「生き続ける意志」は残されているのでしょうか。この問いを、『二源泉』第２章、第３章、第４章を読む中でともに考えていきたいと思います。

―ベルクソンの〈生の哲学〉を通じて、日ごろ私たちには見えづらい〈開いた社会〉と〈閉じた社会〉の区別の問題への気づきを得ます。

―その気づきによって、ベルクソンに従って、私たちの先入見の転換を果たします。すなわち、「理性の命令は本能的もしくは夢遊病的性質のものだ」ということ。「一切の道徳は生物学的本質のものだ」ということ。

―そのような気づきによって、自分が生きていることを、新たに見直すことができるようになります。

ディプロマポリシーのうち、「DP1」「DP2」「DP3」「DP4」「DP5」に関連

日本語 / Japanese

※基本的に対面授業で行います。
―ベルクソン『道徳と宗教の二源泉』を参照しつつ、〈開いた〉と〈閉じた〉と言われる二つの〈社会〉の問題を学んでいきます。
―授業では毎回テキスト箇所を定め、それについてのレポーターの発表を手がかりに、全員でテキスト読解を進めます。
―授業内容への感想や意見を記したリアクション・ペーパーを、毎回の授業後に提出してもらいます。
―学年末にはまとめのレポートの提出を求めます。
―なお、リアクションペーパー等における良いコメントは授業内で紹介し、さらなる議論に活かします。

あり / Yes

なし / No

通年

※各回の授業形態は予定です。教員の指示に従ってください。

第1回：授業の説明

ゼミの流れの確認

第2回：静的宗教(1)

「理性的存在における不条理について」の検討

第3回：静的宗教(2)　

「作話機能」の検討

第4回：静的宗教(3)

「作話と生命」の検討

第5回：静的宗教(4)

「「生の弾み」の意味」の検討

第6回：静的宗教(5)

「作話の社会的役割」の検討

第7回：静的宗教(6)

「断片的諸人格」の検討

第8回：静的宗教(7)

「鬱への保険」の検討

第9回：静的宗教(8)

「有益な作話作用の一般的主題」の検討

第10回：静的宗教(9)

「非合理なものの激増」の検討

第11回：静的宗教(10)

「予見不可能性への保険」の検討

第12回：静的宗教(11)

「成功への意志」の検討

第13回：静的宗教(12)

「偶然について」の検討

第14回：静的宗教(13)

「文明人における原始的心性」の検討

秋学期

第15回：動的宗教(1)　

「創造と愛」の検討

第16回：動的宗教(2)　

「悪の問題」の検討

第17回：動的宗教(3)　

「死後の生」の検討

第18回：最後の指摘―機械主義と神秘主義(1)

「閉じた諸社会と開かれた社会」の検討

第19回：最後の指摘―機械主義と神秘主義(2)

「自然的なものの存続」の検討

第20回：最後の指摘―機械主義と神秘主義(3)

「自然的な社会の諸性格」の検討

第21回：最後の指摘―機械主義と神秘主義(4)

「自然的社会と民主主義」の検討

第22回：最後の指摘―機械主義と神秘主義(5)

「自然的な社会と戦争」の検討

第23回：最後の指摘―機械主義と神秘主義(6)

「戦争と産業時代」の検討

第24回：最後の指摘―機械主義と神秘主義(7)

「諸傾向の進化」の検討

第25回：最後の指摘―機械主義と神秘主義(8)

「「二分法」と「二重狂乱」の検討

第26回：最後の指摘―機械主義と神秘主義(9)

「単純な生活への回帰は可能か」の検討

第27回：最後の指摘―機械主義と神秘主義(10)

「機械主義と神秘主義」の検討

第28回：授業のまとめ

ゼミで得られたことの確認

―毎回、当該箇所のテキストの検討を行って授業に参加します。
―毎回、授業後にリアクション・ペーパーを作成します。
―学期に数回、発表レジュメを作成してレポーター役を果たします。
―各学期末にまとめのレポートを作成します。

本授業の準備学習・復習時間は、各2時間を標準とします。

ベルクソン『道徳と宗教の二つの源泉』（合田正人・小野浩太郎訳、ちくま学芸文庫）

『思想―ベルクソン生誕150 年』（2009 年12 月，岩波書店）
久米博・中田光雄・安孫子信（編）『ベルクソン読本』（法政大学出版局）
平井靖史・藤田尚志・安孫子信（編）『ベルクソン「物質と記憶」を解剖する』（書肆心水）
平井靖史・藤田尚志・安孫子信（編）『ベルクソン「物質と記憶」を診断する』（書肆心水）
平井靖史・藤田尚志・安孫子信（編）『ベルクソン「物質と記憶」を再起動する』（書肆心水）

リアクション・ペーパーを含む平常点4割、レジュメ発表3割、まとめのレポート3割で評価します。その際、各評価では、個々の問題の理解を4割、問題と他の問題とのつながりの理解を3割、問題と自分自身とのつながりの理解を3割で、勘案して行きます。

授業ではできるだけわれわれの日常に近い場所で考え論じるように努めます。