文学部Faculty of Letters

この授業は「ヘーゲル哲学と現代思想」をテーマとする。
「ヘーゲルには途方もない力があります。……私がここでみなさんにお話した思想のどれ一つとして、ヘーゲル哲学の中に少なくとも傾向として含まれていないものなど何一つない、ということを、私は十分自覚しています」（アドルノ『否定弁証法講義』）。
このように語ったのはアドルノだが、彼だけではなく、現代の多くの哲学者は、批判的にせよ受容的にせよ、ヘーゲル哲学から多大なインパクトを受けつつ、そこから独自の思想を展開している。そこでこの授業では、現代思想の動向の一端を、ヘーゲル哲学の批判・継承・発展という視角から検討していく。またそれを通じて、精神、人倫、欲望、否定性、相互承認、絶対的自由、外化、理念、絶対者といったヘーゲル哲学の主要な諸概念がもつ現代的意義を考察する。
具体的な人物とトピックとしては、チャールズ・テイラーの共同体主義・多文化主義、ユルゲン・ハーバーマスのコミュニケーション論・宗教論、アクセル・ホネットの承認論、ジェルジ・ルカーチの物象化論、ジュディス・バトラーのポストモダン・フェミニズム、マルクス・ガブリエルの新実在論、ロバート・ブランダムのネオ・プラグマティズム、森岡正博の生命学、を取り上げる。

・多種多様なヘーゲル解釈やヘーゲル評価に触れることで、哲学古典のもつ豊かなポテンシャルを学ぶこと。
・現代思想において取り組まれている哲学的な諸問題とヘーゲル哲学との関連を、概略的にせよ、適切に説明できるだけの知識を習得すること。
・その知識をもとに、現代社会が抱えている諸課題について各自が理解と洞察を深めること。

ディプロマポリシーのうち、「DP1」「DP2」「DP5」に関連

日本語 / Japanese

・教員による講義と受講者によるレジュメ発表とを組み合わせて進める。
・講義については、パワーポイントと配布プリントを用いる。
・各回の授業テーマについて、教科書内容のレジュメ発表（10～15分程度）を特定の受講者に担当してもらう。受講者は全員、レジュメ発表を少なくとも一回は担当しなければならない。
・毎回リアクションペーパーを提出してもらい、次の授業でそのレスポンスを行う。

あり / Yes

なし / No

秋学期

※各回の授業形態は予定です。教員の指示に従ってください。

第1回：ガイダンス／イントロダクション

授業の進め方と成績評価の確認／ヘーゲル哲学の概要

第2回：テイラーのヘーゲル理解と哲学的人間学

啓蒙主義的な人間観と自由観への批判

第3回：テイラーの道徳文化論と政治哲学

「真正さ」の倫理と差異の相互承認

第4回：ヘーゲルとフランクフルト学派

ハーバーマスのコミュニケーション論とホネットの相互承認論

第5回：ルカーチの物象化論

資本主義とその変革主体をめぐって

第6回：ヘーゲルとポストモダン思想

ポストモダン思想におけるヘーゲル受容とバトラーのジェンダー論

第7回：バトラーの『アンティゴネー』論

『アンティゴネー』解釈とジェンダー問題

第8回：現代哲学の脱宗教化

ヘーゲルの宗教論とハーバーマスの世俗化論

第9回：ヘーゲルとネオ・プラグマティズム

分析哲学におけるヘーゲルの復権

第10回：ブランダムのヘーゲル解釈

「意味論的プラグマティズム」について

第11回：現代哲学の「実在論」的転回

新たな実在論の興隆とガブリエルの「世界の不在」論

第12回：ガブリエルの新実在論

領域的存在論とヘーゲル的な「絶対者」の行方

第13回：ヘーゲルと現代の生命論

「理念」としての生命把握

第14回：総括と展望

ヘーゲル哲学の現代的意義

・各回ごと教科書範囲を指定するので、かならず事前に読んでくること。
・レジュメ担当者は、事前に教科書の内容の要約レジュメを作り、授業日の前日までに教員に送ること。また、分からない内容についてはできるかぎり調べておくこと。

本授業の準備学習・復習時間は、各2時間を標準とします。

寄川条路編著『ヘーゲルと現代社会』晃洋書房、2018年（定価1900円＋税）

寄川条路編著『ヘーゲルと現代思想』晃洋書房
岡本裕一朗『ヘーゲルと現代思想の臨界』ナカニシヤ出版
仲正昌樹『ヘーゲルを超えるヘーゲル』講談社現代新書
それ以外の個々の主題に沿った参考書は授業内で適宜紹介する。

・平常点（14%）、各回のリアクションペーパーの提出とその内容（28％）、レジュメ発表（18%）、期末レポート（40％）、を総合して評価する。

リアクションペーパーへの応答を丁寧に行い、双方向的な授業を心がけたい。