文学部Faculty of Letters

　この講義のテーマは、「ヤスパース：実存と理性の哲学」です。
　20世紀ドイツの哲学者、カール・ヤスパースの極めて広大な思想は、〈実存〉と〈理性〉という二つの主要概念によって特徴づけることができます。まず彼の前期思想は、キルケゴールやニーチェの影響のもと、偶然性や死といった不条理な限界状況の只中にある個としての人間存在を捉え、独自の〈実存哲学〉を確立しました。しかし、ナチス政権下で迫害され、全体主義の脅威を経験した後期のヤスパースは、より積極的に、多様な他者との交わりに開かれた〈理性の哲学〉を提示するに至ります。
　受講者は、こうしたヤスパース哲学の統一的な展開過程、および多面的な全体像を学び、その独自性と可能性を考察することで、現代哲学の一側面への理解を深めることとなるでしょう。

　受講者が達成すべき目標は、以下の三点です。
　① ヤスパース哲学の基本概念と全体構想、および彼の思考の特質を学ぶ。
　② 哲学的伝統や現代の実存思想、20世紀の社会状況との関連を視野に入れ、ヤスパースの思考を導いた問題意識を理解する。
　③ 現代に生きる自分たちにとって、実存および理性という概念が持つ、意義と可能性を考察する。

ディプロマポリシーのうち、「DP1」「DP2」「DP5」に関連

日本語 / Japanese

　授業は、配布資料を使って講義形式で進めます。毎回、ヤスパースが思考した中心課題や基本概念を解説し、問題となっている事柄を捉えていきます。
　受講者には、出席票を兼ねたコメントカードで、感想や意見、質問を提出してもらいます。そのうち重要なものについては、次回の授業でいくつか取り上げ、応答することとします。

■以下、2021年9月13日追記■
　新型コロナウイルス対策のため、初回から少なくとも３回目までの講義は、オンライン授業として実施します。Zoomによるリアルタイム配信となります。
　４回目以降は、大学からの「行動方針」の発表を待って決めますので、現時点では未定です。基本的には、行動方針が「レベル２」以上であればオンライン授業、「レベル１」に下がれば対面授業、と考えています。
　より詳しくは、Hoppiiの「お知らせ」機能での連絡を参照してください。

なし / No

なし / No

秋学期

※各回の授業形態は予定です。教員の指示に従ってください。

第1回：講義の概要と導入

ヤスパース哲学の展開とその時代

第2回：〈存在の探求〉と実存

実存思想の歴史的背景と位置づけ

第3回：〈状況内存在〉からの出発

実存的思考の発生とその根本動機

第4回：実存と〈限界状況〉 (1)

〈実存〉概念の含意と限界状況論の概要

第5回：実存と〈限界状況〉 (2)

実存的自由と〈瞬間〉の思想

第6回：〈実存的交わり〉の論理

他者の存在との共同的自己生成

第7回：〈哲学的世界定位〉の意味

科学知の特性とその限界の露呈

第8回：暗号の形而上学 (1)

存在全体の問いから形而上学への超出

第9回：暗号の形而上学 (2)

超越者とその〈暗号解読〉という概念

第10回：形而上学的〈責め〉

ヤスパースの戦争責任論とその意図

第11回：〈哲学的論理学〉と理性

包括者論と理性概念の基本特徴

第12回：〈哲学的信仰〉の多元性

哲学と宗教との対話の可能性

第13回：原子爆弾と人間の未来

ヤスパースの原爆論とその射程

第14回：講義の総括と展望

実存の多元性と理性的思考

　受講者は、配布資料や指定した参考文献を読解し、予習・復習を実施して参加すること（大学の基準では、本授業の準備・復習時間は、毎回4時間と規定されています）。
　各回の連続性が高いので、欠席が多いと内容を理解できなくなります。学んだ事柄を自主的に整理した上で、極力休まず参加してください。

　特定のテキストは使用しません。

　ヤスパースの主要著作の邦訳は、『哲学』全3巻（創文社）や『ヤスパース選集』全37巻（理想社）などで読めます。高価・入手難のものが多いので、まずは図書館を利用してください。また、さしあたりの概説的な書物として、宇都宮芳明『人と思想 ヤスパース』（清水書院）、重田英世『人類の知的遺産 ヤスパース』（講談社）、Ｗ・シュスラー『ヤスパース入門』（月曜社）を挙げておきます。その他の文献は、講義内で紹介します。

　出席状況およびコメントカードでの理解度や意見・質問の積極性、受講態度などの平常点（50％）と、学期末の課題レポート（50％）で、上記「到達目標」三点の達成度を総合的に評価します。

　各人の経験に引きつけて思考できるよう、常に具体的な実例を織り交ぜた説明を心がけています。また、背景となる哲学史的な知識や、様々な術語の原語に含まれるニュアンスなど、詳しく話しています。配布資料では哲学者のテクストを多く引用し、原典の言葉から問題を理解できるような手法をとります。コメントカードへの応答は内容理解に役立つとの声が多いので、留意していきます。

■以下、2021年9月13日追記■
　少なくとも３回目までは、Zoomによるオンライン配信となり、資料配布や課題提出にはHoppiiを利用します。必要な情報機器をご用意ください。