国際文化研究科Graduate School of Intercultural Communications
POL500G1－406（政治学 / Politics 500）国際人権論International Human Rights: Contemporary Issues
マイノリティの視点から考える人間の尊厳
藤岡 美恵子Mieko FUJIOKA
授業コードなどClass code etc
| 学部・研究科Faculty/Graduate school | 国際文化研究科Graduate School of Intercultural Communications |
| 添付ファイル名Attached documents | |
| 年度Year | 2021 |
| 授業コードClass code | X2034 |
| 旧授業コードPrevious Class code | |
| 旧科目名Previous Class title | |
| 開講時期Term | 春学期授業/Spring |
| 曜日・時限Day/Period | 火6/Tue.6 |
| 科目種別Class Type | |
| キャンパスCampus | 市ヶ谷 |
| 教室名称Classroom name | |
| 配当年次Grade | |
| 単位数Credit(s) | 2 |
| 備考（履修条件等）Notes | |
| 実務経験のある教員による授業科目Class taught by instructors with practical experience |
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Outline (in English)
The guarantee of human rights has been considered an issue of universal importance in the modern world. More importantly, socially marginalized groups of people have used human rights to restore their human dignity, contributing to the development of the international human rights systems.
However, the ideas and systems of human rights which were born along with the development of the modern nation-state system now face serious challenges: one is that they are insufficient in, or in fundamental contradictions with, the protection of human dignity of groups of people who have been excluded or exploited in that system. One factor behind it is the continuation of colonialism. The human rights protection systems are now being reconsidered from that perspective.
In this course, the participants will learn how the international human rights protection systems have developed and what impact they have brought to minority and indigenous groups in Japan and elsewhere. They will consider the challenges posed to the international human rights protection systems using racism and colonialism as key concepts. The course provides the participants an opportunity to acquire critical thinking abilities on the issues of human rights and the perspective of the marginalized/discriminated against in thinking about how human rights can be respected for all.
授業で使用する言語Default language used in class
日本語 / Japanese
授業の概要と目的（何を学ぶか）Outline and objectives
人権は現代世界で常に重要な問題として扱われてきた。その保障は国際的に普遍的な課題として認識されており、何よりも、社会的に周縁化されてきた人々が自らの人間の尊厳を回復するための重要な手立てとして活用してきたのが人権であった。人権保障制度の発展は、そうした周縁化された立場の人々の尊厳を求める運動を契機に発展してきたと言ってよい。
しかし近代の国民国家体制とともに生まれた人権思想と制度は、その枠組みの中で排除や搾取の対象となってきた集団（先住民族、マイノリティ、移民）の尊厳を守るためには不十分、もしくは根源的な矛盾をはらむという課題に直面している。それに関係するのが植民地主義の継続である。植民地主義が終焉するどころか、新たな形態で継続しているという認識が広く支持されるようになっている現在、近代の人権保障の思想と制度が植民地主義の観点から再考されるようになっている。この課題は、ヘイトスピーチの台頭という重大な挑戦に直面する日本社会にとっても、きわめて重要な課題である。
本授業では、国際人権保障体制の発展を踏まえた上で、それが日本を含め世界のマイノリティや先住民族の人権にどのような影響をもたらしたのかを考察し、現代世界が直面する人権をめぐる危機を人種主義と植民地主義をキーワードに考えていく。
人権がともすれば「思いやり」の問題として考えられがちな日本において、人権が差別され周縁化されてきた集団による公正と尊厳を求める運動を契機に発展してきたことを理解することは、今後の日本社会の在り方を考えて行く上で意義が多い。どうすればあらゆる人々の尊厳を保障することができるのかを、人権を侵害されてきた／いる人々の立場から考える思考態度を身につけ、人権をめぐって生じている国際的な課題について批判的な理解・思考能力を養う。
到達目標Goal
国際的な人権保障の体制や考え方がどのように進展してきたかを踏まえた上で、それが国内の人権保障とどのように関係しているかを理解し、20世紀終盤から21世紀初頭の国際秩序の変容の中で、人権の保障という課題がどのような矛盾や問題を抱えているのかを、植民地主義と人種主義というキーワードを使って整理し、説明できるようになる。
この授業を履修することで学部等のディプロマポリシーに示されたどの能力を習得することができるか（該当授業科目と学位授与方針に明示された学習成果との関連）Which item of the diploma policy will be obtained by taking this class?
ディプロマポリシーのうち，「DP1」の達成のために特に重要であり，「DP2」と「DP3」の達成のために重要である
授業で使用する言語Default language used in class
日本語 / Japanese
授業の進め方と方法Method(s)（学期の途中で変更になる場合には、別途提示します。 /If the Method(s) is changed, we will announce the details of any changes. ）
基本的にZoomを使ったリアルタイムオンライン授業とする。各回の指定テキストの報告発表と討論で進める。期末に小論文形式の試験を行う。初回授業を含め、授業参加の方法、各種お知らせは学習支援システムで通知する。
アクティブラーニング（グループディスカッション、ディベート等）の実施Active learning in class (Group discussion, Debate.etc.)
あり / Yes
フィールドワーク（学外での実習等）の実施Fieldwork in class
なし / No
授業計画Schedule
春学期
※各回の授業形態は予定です。教員の指示に従ってください。
第1回：イントロダクション
●日本における人権に関する認識： ヘイトスピーチ、Black Lives Matter, #MeTooを手がかりに
授業内容・授業計画の説明。
人権とは何か。人権がなぜ必要なのか。人権は人間社会においてどのような位置をもつのかをあらためて考える。
第2回：国際人権の発展と現在
[テキスト] 阿部（2010）「国際法への眼差し――序にかえて」」
国際人権の起源と発展の跡をたどり現在的な課題を知る。
第3回：変容する世界と国際人権
[テキスト] 阿部（2010）第1章「「人間」の終焉
冷戦終結と９・１１以降、「テロリズム」という記号が動員される中での人権の後退と新たな問題を考える
第4回：人権と「文明化の使命」
[テキスト]阿部（2010）第2章「愚かしき暴力と、国際人権の物語」
植民地主義の観点から国際人権を捉えなおし、現在の「南北問題」との関係を考える
第5回：ヘイトスピーチの被害と人権
[テキスト]朴「京都朝鮮学校襲撃事件」、鄭「ヘイトスピーチ被害の非対称性」
近年問題になっているヘイトスピーチがどのような被害をもたらすのかを理解する。
第6回：ヘイトスピーチへの対応
[テキスト]阿部（2019）「国際人権法によるヘイトスピーチの規制」、中村「ヘイトスピーチの修復的アプローチを考える」
ヘイトスピーチに対して国際人権法がどう規制しているか、またヘイトスピーチを乗り越える一つの方法としての修復的アプローチを考える
第7回：植民地主義と先住民族の自決権
[テキスト]上村（2001）「第3章 近代国家日本と「北海道」「沖縄」の植民地化」
日本によるアイヌ・沖縄への植民地支配の歴史と先住民族の自決権を理解する。
第8回：先住民族の権利に関わる世界的動向と日本の先住民族の運動の国際的展開
[テキスト]上村（2018）「声を上げた日本の先住民族」、宮里「差別主義と民族主義の清算」
先住民族の権利を求める世界的な動向が日本の先住民族にどう影響し、日本社会にどのようなインパクトをもたらしているかを考える。
第9回：植民地主義の克服と「多文化共生」論
[テキスト]藤岡「第1章 植民地主義の克服と「多文化共生」論」
北朝鮮バッシングを手がかりに、日本の「多文化共生」論と植民地主義の克服という課題の関係を考える
第10回：「多文化共生」におけるマジョリティとマイノリティ
[テキスト]ハタノ「在日ブラジル人を取り巻く「多文化共生」の諸問題」
マイノリティの視点から見る「多文化共生」の問題を考える。
第11回：国民統合の概念としての多文化主義
[テキスト]塩原「隠された多文化主義―オーストラリアにおける国民統合の逆説」
国民統合の概念としての多文化主義の問題点を探る
第12回：多文化主義と人権の未来
[テキスト]阿部（2010）第4章「要塞の中の多民族共生／多文化主義」」
EUを例に多文化主義を標榜する社会における新たな排除の問題を考える。
第13回：過去の人権侵害への責任
[テキスト]阿部（2010）第7章「戦後責任と和解の模索」
現在の人権をめぐる課題が過去の重大人権侵害に対する責任と密接に関係していることを踏まえ、その責任をどのように問えるのかを考える。
第14回：まとめ／期末試験講評
授業のまとめと期末試験講評を行う。
授業時間外の学習（準備学習・復習・宿題等）Work to be done outside of class (preparation, etc.)
指定文献を事前に読み、発表担当回では事前に発表レジュメを用意する。
本授業の準備、復習時間は各5時間を基準とする。
期末試験は事前に示された問いに対して、授業時間外で小論文形式で答案を作成する。答案は授業最終回の前日までに提出する。答案作成にかかる時間は16時間程度。
テキスト（教科書）Textbooks
★――指定書 要購入。その他はプリントを配布
①★阿部浩己『国際法の暴力を超えて』岩波書店、2010年（「序に変えて」、第1章、第2章、第4章、第7章）
②阿部浩己「国際人権法によるヘイトスピーチの規制」法学セミナー編集部『別冊法学セミナー ヘイトスピーチに立ち向かう』日本評論社、2019年
③上村英明『先住民族の「近代史」―植民地主義を超えるために』平凡社、2001年（第3章 「近代国家日本と「北海道」「沖縄」の植民地化」）
④上村英明「声を上げた日本の先住民族」深山直子・丸山淳子・木村真希子編『先住民からみる現代世界――わたしたちの〈あたりまえ〉に挑む』昭和堂、2018年
⑤塩原良和「隠された多文化主義―オーストラリアにおける国民統合の逆説」日本移民学会編『移民研究と多文化共生』御茶の水書房、2011年
⑥鄭 暎惠「ヘイトスピーチ被害の非対称性」法学セミナー編集部『別冊法学セミナー ヘイトスピーチとは何か』日本評論社、2019年
⑦中村一成「ヘイトクライムの修復的アプローチを考える」法学セミナー編集部『別冊法学セミナー ヘイトスピーチに立ち向かう』日本評論社、2019年
⑧リリアン・テルミ・ハタノ「在日ブラジル人を取り巻く「多文化共生」の諸問題」植田晃次・山田仁編著『「共生」の内実』三元社、2011
⑨朴 貞任「京都朝鮮学校襲撃事件」法学セミナー編集部『別冊法学セミナー ヘイトスピーチとは何か』日本評論社、2019年
⑩藤岡美恵子「第1章 植民地主義の克服と「多文化共生」論」中野憲志編『制裁論を超えて――朝鮮半島と日本の〈平和〉を紡ぐ』新評論、2007年
⑪宮里護佐丸「差別主義と民族主義の清算」深山直子・丸山淳子・木村真希子編『先住民からみる現代世界――わたしたちの〈あたりまえ〉に挑む』2018年、昭和堂
参考書References
①岩崎稔他『継続する植民地主義―ジェンダー/民族/人種/階級』青弓社、2005年
②植木哲也『植民学の記憶――アイヌ差別と学問の責任』緑風出版、2015年
③岡和田晃／マーク・ウィンチェスター『アイヌ民族否定論に抗する』河出書房新社、2015年
④エイミー・ガットマン編『マルチカルチュラリズム』岩波書店、1996年
⑤小森陽一『ポストコロニアル』岩波書店、2001年
⑥塩原良和『ネオ・リベラリズムの時代の多文化主義――オーストラリアン・マルチカルチュラリズムの変容』三元社、2005年
⑦永原陽子編『「植民地責任」論―脱植民地化の比較史』青木書店、2009年
⑧西川長夫『〈新〉植民地主義論――グローバル化時代の植民地主義を問う』平凡社、2006年
⑨ガッサン・ハージ（保苅実・塩原良和訳）『ホワイト・ネイション――ネオ・ナショナリズム批判』平凡社、2003年
⑩バンセル、N.ほか『植民地共和国フランス』岩波書店、2011年
⑪樋口直人『日本型排外主義―在特会・外国人参政権・東アジア地政学』名古屋大学出版会、2014年
⑫ミシェル・ヴィヴィオルカ『レイシズムの変貌 : グローバル化がまねいた社会の人種化、文化の断片化』明石書店、2007年
⑬ジョージ・M. フレドリクソン『人種主義の歴史』みすず書房、2009年
⑭前田朗『ヘイト・クライム』三一書房労働組合、2010年
⑮松島泰勝『琉球 奪われた骨――遺骨に刻まれた植民地主義』岩波書店、2018年
⑯アルベール・メンミ『人種差別』法政大学出版局、1996年
⑰テッサ・モーリス＝鈴木『辺境から眺める――アイヌが経験する近代』みすず書房、2000年
成績評価の方法と基準Grading criteria
・平常点50%（発表、討論への参加）、期末試験50％
・発表については、指定テキストの内容の報告だけでなく、討論のための論点の提示を求める。
・討論への参加については、内容の理解に加え、討論の進行を助け、他の参加を促すような積極的な疑問の提示、意見表明を評価する。
・期末試験は、予め提示する２，３題の質問に対する小論文形式で行う。答案の提出日は第14回授業の前日。
学生の意見等からの気づきChanges following student comments
前年度の初のオンライン授業では、ディスカッションの時間がもっと欲しいとの要望があったことを受け、今年度はリアルタイムでのディスカッション主体の授業とする。
学生が準備すべき機器他Equipment student needs to prepare
学習支援システムを使用するため、PCとインターネット環境は必須。
担当教員の専門分野等
＜専門領域＞国際人権論（マイノリティ、先住民族の権利）、NGO論、植民地主義と平和
＜研究テーマ＞人種主義と植民地主義
＜主要研究業績＞『脱「国際協力」――開発と平和構築を超えて』（新評論、2011年）、「資源開発への異議申し立てと先住民族の自己決定権」（東日本部落解放研究所発行『明日を拓く』第80号、2009年）、「植民地主義の克服と「多文化共生」論」（『制裁論を超えて――朝鮮半島と日本の〈平和〉を紡ぐ』新評論、2007年）