市ヶ谷リベラルアーツセンター(ILAC)ILAC Course
PHL300LA(哲学 / Philosophy 300)教養ゼミⅡLiberal Arts Seminar II
「反出生主義の哲学」の批判——「生まれてこない方がよかった」というのは本当か?
森村 修Osamu MORIMURA
授業コードなどClass code etc
学部・研究科Faculty/Graduate school | 市ヶ谷リベラルアーツセンター(ILAC)ILAC Course |
添付ファイル名Attached documents | |
年度Year | 2021 |
授業コードClass code | Q6120 |
旧授業コードPrevious Class code | |
旧科目名Previous Class title | |
開講時期Term | 秋学期授業/Fall |
曜日・時限Day/Period | 月4/Mon.4 |
科目種別Class Type | |
キャンパスCampus | 市ヶ谷 |
教室名称Classroom name | |
配当年次Grade | |
単位数Credit(s) | 2 |
備考(履修条件等)Notes | 法文営国環キ2~4年※定員制 |
他学部公開科目Open Program | ○ |
他学部公開(履修条件等)Open Program (Notes) | |
グローバル・オープン科目Global Open Program | |
成績優秀者の他学部科目履修制度対象Interdepartmental class taking system for Academic Achievers | ○ |
成績優秀者の他学部科目履修(履修条件等)Interdepartmental class taking system for Academic Achievers (Notes) | |
実務経験のある教員による授業科目Class taught by instructors with practical experience | |
SDGsCPSDGs CP | |
アーバンデザインCPUrban Design CP | |
ダイバーシティCPDiversity CP | |
未来教室CPLearning for the Future CP | |
カーボンニュートラルCPCarbon Neutral CP | |
千代田コンソ単位互換提供(他大学向け)Chiyoda Campus Consortium | |
選択・必修Optional/Compulsory | |
カテゴリー(2017年度以降)Category (2018~) |
2017年度以降入学者 ILAC科目 300番台 総合科目 教養ゼミ |
カテゴリー(2016年度以前)Category (2017) |
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Outline (in English)
The purpose of this class is to examine the contemporary significance of "Antinatalism" with special reference to Benatar's "Better Never to Have Been." By the way, according to Benatar, it is important to reduce the harm of this world by preventing the birth of newborns, and therefore abortion is affirmed. Eventually, he comes to the conclusion that humanity should be extinct.
Therefore, this class first examines the rebuttal of Benatar's assertion that "even if it is a quality life, our lives are very bad." Second, we examine in what sense a "birth affirmation philosophy" (Masahiro Morioka) that denies Benatar's "anti-birth" is possible. As a result, we consider philosophically the question of whether we should have been born.
授業で使用する言語Default language used in class
日本語 / Japanese
授業の概要と目的(何を学ぶか)Outline and objectives
【授業の概要】
2000年代になってにわかに議論が喧しくなってきた哲学的問題に、「反出生主義(Antinatalism)がある。端的に言えば、「生まれてこないほうが良かった」という思想である。それゆえ、「反出生主義」とは、「存在してしまうことの害悪」をなるべく減ずるために、将来生まれてくる可能性のある人々の誕生を防ぐことは道徳的に正しいという議論である。
哲学史的に見れば、「反出生主義」の思想は、19世紀の哲学者アルトゥル・ショーペンハウアー(1788-1860)のペシミズムに遡ることができる。彼の影響のもとに、ニーチェは、『悲劇の誕生』のなかで、「人間にとってもっとも善いことは、生まれなかったこと、存在しないこと、何者でないことだ。次に善いことは、すぐに死ぬことだ」と書き記している。
こうした「反出生主義」が再び議論を巻き起こしている背景には、デイヴィッド・ベネター(南アフリカ・ケープタウン大学准教授)が『生まれてこなかったほうが良かった——存在してしまうことの害悪(David Benatar, Better Never to Have Been: The Harm of Coming into Existence)』(2006)を出版したことがある。森岡正博によれば、ベネターは、基本的にはショーペンハウアーの『意志と表象の世界』(1819正編/1843続編)の思想を引き継いでいるが、彼が「反出生主義」を分析哲学の手法を用いて哲学のテーマとしたことである。
そこで2021年度の本授業は、「春学期」で取り上げたベネターのテキストを批判的に検討する。その際に、森岡正博の『生まれてこない方が良かったのか——生命の哲学へ!』(2020)を取り上げ、「反出生主義」の批判から、「誕生肯定」の哲学へと至る道を探る。
【授業の目的】
本授業の目的は、ベネターの『生まれてこないほうが良かった』を検討することによって、「反出生主義」の現代的意義を考察する。ちなみにベネターによれば、生まれてくる人たちの誕生を防ぐことによって、この世界の害悪を減らしていくことが重要であり、それゆえ、人工妊娠中絶は肯定される。最終的に、彼は「人類は絶滅したほうがよい」という結論に至る。
そこで本授業では、第一に、「たとえ質の高い人生であったとしても、私たちの人生は非常に悪いものだ」というベネターの主張に対する反論を検討する。
第二に、どのような意味で、ベネターの「反出生主義」を否定する「誕生肯定の哲学」(森岡正博)は可能かを検討する。結果的に、私たちは「生まれてきたほうがよかった」といいうるのかという問題を哲学的に検討する。
到達目標Goal
①森岡正博の「誕生肯定」の思想を学ぶことができる。
②哲学的なテクストを読むことができる。
③レジュメを書くことができる。
この授業を履修することで学部等のディプロマポリシーに示されたどの能力を習得することができるか(該当授業科目と学位授与方針に明示された学習成果との関連)Which item of the diploma policy will be obtained by taking this class?
各学部のディプロマ・ポリシーのうち、以下に関連している。法学部・法律学科:DP3・DP4、法学部・政治学科:DP1、法学部・国際政治学科:DP1、文学部:DP1、経営学部:DP1、国際文化学部:DP2、人間環境学部:DP2、キャリアデザイン学部:DP1
授業で使用する言語Default language used in class
日本語 / Japanese
授業の進め方と方法Method(s)(学期の途中で変更になる場合には、別途提示します。 /If the Method(s) is changed, we will announce the details of any changes. )
(1)基本的に「演習」形式で行う。
(2)毎回、担当者を決め、レジュメを作成してもらう。
◆レジュメには、①担当箇所の翻訳と解説、②用語説明、③考察、④問題点を記載する。
◆特定質問者を決めて、担当者の発表に対して、質問を行う。
(3)それ以外の授業参加者と教員を含めて質疑を行い、問題点について議論する。
(4)フィードバックの方法
◆授業の初めに、前回の授業で提出されたリアクションペーパーからいくつか取り上げ、全体に対してフィードバックを行う。
アクティブラーニング(グループディスカッション、ディベート等)の実施Active learning in class (Group discussion, Debate.etc.)
あり / Yes
フィールドワーク(学外での実習等)の実施Fieldwork in class
あり / Yes
授業計画Schedule
※各回の授業形態は予定です。教員の指示に従ってください。
第1回:イントロダクション
・当番の順番を決定する
・授業の概要説明
第2回:第1章 「おまえは生きなければならない!」①
1. メフィストと「否定する精神」
2. 「お前は生きなければならない!」
第3回:第1章 「おまえは生きなければならない!」②
3. 救済されたファウストの魂
4. 『ファウスト』と誕生否定
第4回:第2章 誕生は害悪なのか①
1. オイディプス王
2. 世界と人生に対する呪詛
第5回:第2章 誕生は害悪なのか②
3. ベネターの「誕生害悪論」
4. 反出生主義の射程
第6回:第3章 ショーペンハウアーの反出生主義①
1. 生命論へと変換されたカント哲学
2. 生きようとする意志
3. いっさいの生は苦しみである
第7回:第3章 ショーペンハウアーの反出生主義②
4. 「無意志」の状態こそが最高善である
5. 自殺について
6. 死によっても壊れ得ないもの
7. ショーペンハウアーの影響力
第8回:第4章 輪廻する不滅のアーマン①
1. 輪廻思想の誕生
2. 熟睡によって到達する本来の自己
第9回:第4章 輪廻する不滅のアーマン②
「お前がそれである」
第10回:第5章 ブッダは誕生をどう考えたのか①
1. 一切皆苦
2. 涅槃寂静
第11回:第5章 ブッダは誕生をどう考えたのか②
3. 生まれてこないほうが良かったのか?
4. 原始仏教と自殺
第12回:第6章 ニーチェ——生まれてきた運命を愛せるか①
1. 生を肯定する哲学者
2. 永遠回帰
3. 運命愛
第13回:第6章 ニーチェ——生まれてきた運命を愛せるか②
4. 在るところのものに成ることを欲する
5. ニーチェと誕生肯定
第14回:第7章 誕生を肯定すること、生命を哲学すること
1. 誕生害悪論を再考する
2. 善から悪が生成することは悪なのか?
3. 子どもを産むことをどう考えるか
4. 誕生肯定の哲学へ!
5. 生命の哲学へ!
授業時間外の学習(準備学習・復習・宿題等)Work to be done outside of class (preparation, etc.)
・担当者は、テキストの該当箇所のレジュメを発表前日までに教員に提出すること。
・特定質問者は、テキストの該当箇所に関する質問を3つ以上考え、簡単な質問表を作ってくること(発表当日でよい)
・それ以外の参加者は、該当箇所について質問を1つは考え、当日の議論に参加する準備をすること。
・本授業の準備・復習時間は、各2時間を標準とする。
テキスト(教科書)Textbooks
森岡正博『生まれてこないほうが良かったのか?——生命の哲学へ!」(筑摩選書、2020年)
参考書References
(1) デイヴィッド・ベネター『生まれてこないほうが良かった——存在してしまうことの害悪』、すずさわ書店、2017年
(2)「特集 反出生主義を考える——「生まれてこないほうが良かった」という思想」、『現代思想』、青土社、2019年11月号
(3) 吉沢文武「ベネターの反出生主義をどう受けとめるか」、『現代思想』「特集 倫理学の論点23」所収、青土社、2019年9月号
◆ その他については、授業中に指示する。
成績評価の方法と基準Grading criteria
・個別報告発表(50%)(回数および内容による評価)
・特定質問担当(30%)(質問内容による評価)
・討論参加(20%)(内容による評価)
※ 以上に基づいて、総合的に評価する。
※ なお、無断欠席は認めない。
学生の意見等からの気づきChanges following student comments
特になし
学生が準備すべき機器他Equipment student needs to prepare
特になし
その他の重要事項Others
最近の大学生の中には、基本的なテキスト読解が不十分な者が見受けられる。テキストを「読む」というのは、テキストを「読み解く」のであって「読み込む」のではないことは肝に銘じるべきである。「読み込む」ということは、自分の考えをテキストに投影することであり、それは単なる勝手な解釈に過ぎない。それでは、真にテキストを「読解する」ことにならない。あくまで「虚心坦懐」にテキストに向かい、「眼光紙背を徹する」態度でテキストに向かわなければ、哲学的なテキストを「読む」ことはできない。
また、担当者はレジュメを作成する上で、引用されているテキストはもちろん、それ以外にも用語・概念などについて、徹底的に下調べを行うべきである。担当者以外に対して、教員から授業中に質問することが多々あるので、担当者と同様に準備を怠らないでほしい。
演習とはpractice(=実践)を意味しているのであり、テキストを「読む」という実践は五感を十分に活用することです。授業に参加する皆さんは、哲学を「実践する」態度で臨んでもらいたい。
【受講上の注意】
本授業は、哲学・倫理学、思想の分野に深くコミットしているために、自身の思考の鍛錬を要する。テキストを読むこと、それに基づいて自分の思考を実践すること、これらの作業は哲学研究にとって必須のものと心得てもらいたい。単に、カルチュラル・スタディーズや、ポスト・コロニアリズム研究などとは異なるので、注意を要する。
担当教員の専門分野等
<専門領域> 現代哲学(現象学・構造主義以後のフランス哲学)・現代倫理学(ケアの倫理学・応用倫理学)
<研究テーマ> 生命体・地球を含む「生の倫理学」(例えば、暴力や虐待、テロなどによるトラウマやPTSDに苦しむ人たちを「生・生活・人生・生命(life)」という観点からケアしていくためにしなければならない義務・責任を考察する)
<主要研究業績>
1.【共著】森村修「「社会政治的トラウマ」の倫理」、牧野英二・小野原雅夫・山本英輔・斎藤元紀編『哲学の変換と知の越境』所収、法政大学出版局、2019年【臨床哲学・生の倫理学】
2.【共著】森村修「アマルティア・セン──自由と正義のアイデア」、栩木玲子/法政大学国際文化学部編『〈境界〉を生きる思想家たち』所収、法政大学出版局、2016年【現代倫理学】
3.【共著】森村修「ヨーロッパ」という問題─テロルと放射能時代における哲学」、熊田泰章編『国際文化研究への道: 共生と連帯を求めて』所収、彩流社、2013 年【現代哲学】
4.【論文】森村修「市川白弦の「空-無政府-共同体論(Śūnya-Anarchist-Communism)」――小笠原秀実の仏教アナキズムと西谷啓治の自衛論批判をめぐって」、法政大学国際文化学部編『異文化20』、2019年【日本哲学】
5. 【論文】森村修「技術は「ヒューマニズムを超える」か? (1)—ハイパー・ニヒリズム時代におけるハイデガーの「技術哲学」(1)」、法政大学国際文化学部編『異文化19』論文編、2018年【現代ドイツ哲学・応用倫理学】
6. 【論文】森村修「パウル・ツェランという問題(1)—ガダマーとデリダの「途切れない対話」(1)」、法政大学国際文化学部編『異文化』論文編、2017年【現代ドイツ・フランス哲学】
7. 【論文】森村修「思想の翻訳と文字の問題──比較思想から間文化性の比較思考へ」、比較思想学会編『比較思想研究』第42号、2016年【日本哲学・Intercultural Philosophy】
8. 【論文】森村修「センの「道徳哲学」(1) ──パトナム「事実/価値二分法の崩壊」論を手がかりに(1)」、法政大学国際文化学部編『異文化17』論文篇、2016年【現代倫理学】
9. 【論文】森村修「「性的差異」のケア倫理学──フェミニズム倫理学と和辻倫理学における「肉体」の問題」、『比較思想研究』第41号、2015年【日本哲学・ケアの倫理学】
10. 【論文】森村修「喪と/あるいはメランコリー(1) ──デリダの〈精神分析の哲学〉(1)」、法政大学国際文化学部編『異文化16』論文篇、2015年【現代哲学】