市ヶ谷リベラルアーツセンター(ILAC)ILAC Course
PHL300LA(哲学 / Philosophy 300)教養ゼミⅠLiberal Arts Seminar I
反出生主義の哲学——「生まれてこない方がよかった」というのは本当か?
森村 修Osamu MORIMURA
授業コードなどClass code etc
学部・研究科Faculty/Graduate school | 市ヶ谷リベラルアーツセンター(ILAC)ILAC Course |
添付ファイル名Attached documents | |
年度Year | 2021 |
授業コードClass code | Q6119 |
旧授業コードPrevious Class code | |
旧科目名Previous Class title | |
開講時期Term | 春学期授業/Spring |
曜日・時限Day/Period | 月4/Mon.4 |
科目種別Class Type | |
キャンパスCampus | 市ヶ谷 |
教室名称Classroom name | |
配当年次Grade | |
単位数Credit(s) | 2 |
備考(履修条件等)Notes | 法文営国環キ2~4年※定員制 |
他学部公開科目Open Program | ○ |
他学部公開(履修条件等)Open Program (Notes) | |
グローバル・オープン科目Global Open Program | |
成績優秀者の他学部科目履修制度対象Interdepartmental class taking system for Academic Achievers | ○ |
成績優秀者の他学部科目履修(履修条件等)Interdepartmental class taking system for Academic Achievers (Notes) | |
実務経験のある教員による授業科目Class taught by instructors with practical experience | |
SDGsCPSDGs CP | |
アーバンデザインCPUrban Design CP | |
ダイバーシティCPDiversity CP | |
未来教室CPLearning for the Future CP | |
カーボンニュートラルCPCarbon Neutral CP | |
千代田コンソ単位互換提供(他大学向け)Chiyoda Campus Consortium | |
選択・必修Optional/Compulsory | |
カテゴリー(2017年度以降)Category (2018~) |
2017年度以降入学者 ILAC科目 300番台 総合科目 教養ゼミ |
カテゴリー(2016年度以前)Category (2017) |
すべて開くShow all
すべて閉じるHide All
Outline (in English)
The purpose of this class is to examine the contemporary significance of "anti-birth" with special reference to Benatar's "I was better off not being born." By the way, according to Benatar, it is important to reduce the harm of this world by preventing the birth of newborns, and therefore abortion is affirmed. Eventually, he comes to the conclusion that humanity should be extinct.
Therefore, this class first examines the rebuttal of Benatar's assertion that "even if it is a quality life, our lives are very bad." Second, we examine in what sense a "birth affirmation philosophy" (Masahiro Morioka) that denies Benatar's "anti-birth" is possible. As a result, we consider philosophically the question of whether we should have been born.
授業で使用する言語Default language used in class
日本語 / Japanese
授業の概要と目的(何を学ぶか)Outline and objectives
【授業の概要】
2000年代になってにわかに議論が喧しくなってきた哲学的問題に、「反出生主義(Antinatalism)がある。端的に言えば、「生まれてこないほうが良かった」という思想である。それゆえ、「反出生主義」とは、「存在してしまうことの害悪」をなるべく減ずるために、将来生まれてくる可能性のある人々の誕生を防ぐことは道徳的に正しいという議論である。
哲学史的に見れば、「反出生主義」の思想は、19世紀の哲学者アルトゥル・ショーペンハウアー(1788-1860)のペシミズムに遡ることができる。彼の影響のもとに、ニーチェは、『悲劇の誕生』のなかで、「人間にとってもっとも善いことは、生まれなかったこと、存在しないこと、何者でないことだ。次に善いことは、すぐに死ぬことだ」と書き記している。
こうした「反出生主義」が再び議論を巻き起こしている背景には、デイヴィッド・ベネター(南アフリカ・ケープタウン大学准教授)が『生まれてこなかったほうが良かった——存在してしまうことの害悪(David Benatar, Better Never to Have Been: The Harm of Coming into Existence)』(2006)を出版したことがある。森岡正博(早稲田大学教授)によれば、ベネターの哲学は、基本的にはショーペンハウアーの『意志と表象の世界』(1819正編/1843続編)の思想を引き継いでいるが、彼が「反出生主義」を分析哲学の手法を用いて哲学のテーマとしたことは評価できる。
そこで2021年度の本授業は、ベネターのテキストを取り上げ、「反出生主義」の思想を考察することにしたい。
【授業の目的】
本授業の目的は、ベネターの『生まれてこないほうが良かった』を検討することによって、「反出生主義」の現代的意義を考察する。ちなみにベネターによれば、生まれてくる人たちの誕生を防ぐことによって、この世界の害悪を減らしていくことが重要であり、それゆえ、人工妊娠中絶は肯定される。最終的に、彼は「人類は絶滅したほうがよい」という結論に至る。
本授業では、第一に、「たとえ質の高い人生であったとしても、私たちの人生は非常に悪いものだ」というベネターの主張に対する反論を検討する。
第二に、どのような意味で、ベネターの「反出生主義」を否定する「誕生肯定の哲学」(森岡正博)は可能かを検討する。
結果的に、私たちは「生まれてきたほうがよかった」といいうるのかという問題を哲学的に検討する。
到達目標Goal
①ベネターの「反出生主義」の思想を学ぶことができる。
②哲学的なテクストを読むことができる。
③レジュメを書くことができる。
④ベネター以外の「反出生主義」の思想を学ぶことができる
この授業を履修することで学部等のディプロマポリシーに示されたどの能力を習得することができるか(該当授業科目と学位授与方針に明示された学習成果との関連)Which item of the diploma policy will be obtained by taking this class?
各学部のディプロマ・ポリシーのうち、以下に関連している。法学部・法律学科:DP3・DP4、法学部・政治学科:DP1、法学部・国際政治学科:DP1、文学部:DP1、経営学部:DP1、国際文化学部:DP2、人間環境学部:DP2、キャリアデザイン学部:DP1
授業で使用する言語Default language used in class
日本語 / Japanese
授業の進め方と方法Method(s)(学期の途中で変更になる場合には、別途提示します。 /If the Method(s) is changed, we will announce the details of any changes. )
(1)基本的に「演習」形式で行う。
(2)毎回、担当者を決め、レジュメを作成してもらう。
◆レジュメには、①担当箇所の翻訳と解説、②用語説明、③考察、④問題点を記載する。
(3)授業の進め方
①特定質問者を決めて、担当者の発表に対して、質問を行う。
②それ以外の授業参加者と教員を含めて質疑を行い、問題点について議論する。
(4)フィードバックの方法
・授業の初めに、前回の授業で提出されたリアクションペーパーからいくつか取り上げ、全体に対してフィードバックを行う。
アクティブラーニング(グループディスカッション、ディベート等)の実施Active learning in class (Group discussion, Debate.etc.)
あり / Yes
フィールドワーク(学外での実習等)の実施Fieldwork in class
あり / Yes
授業計画Schedule
※各回の授業形態は予定です。教員の指示に従ってください。
第1回:イントロダクション
・授業の進め方についての説明
・発表の順番等の決定
第2回:第1章 序論①
・誰がそんなに幸運なのか
・反出生主義と出生を促進する偏見
第3回:第1章 序論②
・本書の概要
第4回:第2章 存在してしまうことが常に害悪である理由①
・存在してしまうことが害悪であるということがあり得るか?
第5回:第2章 存在してしまうことが常に害悪である理由②
・なぜ存在してしまうことは常に害悪であるのか
第6回:第3章 存在してしまうことがどれほど悪いのか①
・人生の良さと悪さの差が人生の質にはならない理由
・なぜ人生の質の自己判断は信頼できないのか
第7回:第3章 存在してしまうことがどれほど悪いのか②
・人生の質に関する三つの見解と三つの見解どれをとっても人生はうまくいかない理由
・苦痛の世界
第8回:第4章 子どもを持つということ: 反出生的見解①
・子作り
・子供を作る理由
第9回:第4章 子どもを持つということ: 反出生的見解②
・障碍とロングフルライフ(望まずに生まれた命)
・生殖補助と人工生殖
・将来生まれてくる人間を単なる手段として考えること
第10回:第5章 妊娠中絶: 「妊娠中絶賛成派」の見解①
・四種類の利害〔interest〕
・どの利害が道徳に関係するのか?
・いつから意識が生じ始めるのか?
第11回:第5章 妊娠中絶: 「妊娠中絶賛成派」の見解②
・存在し続けることへの利害
・黄金律
・「私たちと同じような未来」
・結論
第12回:第6章 人口と絶滅①
・人口過剰
・人口に関する道徳理論に潜む問題を解決する
第13回:第6章 人口と絶滅②
・段階的絶滅
・絶滅
第14回:第7章 結論
・反直観的であるという反論に反論する
・楽観主義者への応答
・死と自殺
・宗教的見解
・人間嫌いと人間好き
授業時間外の学習(準備学習・復習・宿題等)Work to be done outside of class (preparation, etc.)
・担当者は、テキストの該当箇所のレジュメを発表前日までに教員に提出すること。
・特定質問者は、テキストの該当箇所に関する質問を3つ以上考え、簡単な質問表を作ってくること(発表当日でよい)
・それ以外の参加者は、該当箇所について質問を1つは考え、当日の議論に参加する準備をすること。
・本授業の準備・復習時間は、各2時間を標準とします。
テキスト(教科書)Textbooks
(1)デイヴィッド・ベネター『生まれてこないほうが良かった——存在してしまうことの害悪』、すずさわ書店、2017年
(2)David Benatar, Better Never to Have Been: The Harm of Coming into Existence, Oxford University Press, 2006.
参考書References
(1)「特集 反出生主義を考える——「生まれてこないほうが良かった」という思想」、『現代思想』、青土社、2019年11月号
(2)吉沢文武「ベネターの反出生主義をどう受けとめるか」、『現代思想』「特集 倫理学の論点23」所収、青土社、2019年9月号
◆ その他については、授業中に指示する。
成績評価の方法と基準Grading criteria
・個別報告発表(50%)(回数および内容による評価)
・特定質問担当(30%)(質問内容による評価)
・討論参加(20%)(内容による評価)
※ 以上に基づいて、総合的に評価する。
※ なお、無断欠席は認めない。
※要注意
・リアルタイムオンライン授業の場合には、成績評価の方法と基準も変更する。
学生の意見等からの気づきChanges following student comments
特になし
学生が準備すべき機器他Equipment student needs to prepare
特になし
その他の重要事項Others
最近の大学生の中には、基本的なテキスト読解が不十分な者が見受けられる。テキストを「読む」というのは、テキストを「読み解く」のであって「読み込む」のではないことは肝に銘じるべきである。「読み込む」ということは、自分の考えをテキストに投影することであり、それは単なる勝手な解釈に過ぎない。それでは、真にテキストを「読解する」ことにならない。あくまで「虚心坦懐」にテキストに向かい、「眼光紙背を徹する」態度でテキストに向かわなければ、哲学的なテキストを「読む」ことはできない。
また、担当者はレジュメを作成する上で、引用されているテキストはもちろん、それ以外にも用語・概念などについて、徹底的に下調べを行うべきである。担当者以外に対して、教員から授業中に質問することが多々あるので、担当者と同様に準備を怠らないでほしい。
演習とはpractice(=実践)を意味しているのであり、テキストを「読む」という実践は五感を十分に活用することです。授業に参加する皆さんは、哲学を「実践する」態度で臨んでもらいたい。
【受講上の注意】
本授業は、哲学・倫理学、思想の分野に深くコミットしているために、自身の思考の鍛錬を要する。テキストを読むこと、それに基づいて自分の思考を実践すること、これらの作業は哲学研究にとって必須のものと心得てもらいたい。