法務研究科Law School
LAW500A2(法学 / law 500)民法演習ⅢSeminar on Civil Law Ⅲ
野中 貴弘Takahiro NONAKA
授業コードなどClass code etc
学部・研究科Faculty/Graduate school | 法務研究科Law School |
添付ファイル名Attached documents | |
年度Year | 2021 |
授業コードClass code | V1541 |
旧授業コードPrevious Class code | |
旧科目名Previous Class title | |
開講時期Term | 春学期授業/Spring |
曜日・時限Day/Period | 月5/Mon.5 |
科目種別Class Type | |
キャンパスCampus | 市ヶ谷 |
教室名称Classroom name | |
配当年次Grade | 3 |
単位数Credit(s) | 2 |
備考(履修条件等)Notes | 選択 |
実務経験のある教員による授業科目Class taught by instructors with practical experience | |
カテゴリーCategory |
法律基本科目群(応用科目) 民事系 |
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Outline (in English)
The purpose of this seminar is to discover what is the problem in cases including various problems related to Japanese benevolent intervention in another's affairs, unjust enrichment and tort law, and then to discuss logically based on judgments and theories.
授業で使用する言語Default language used in class
日本語 / Japanese
授業の概要と目的(何を学ぶか)Outline and objectives
債権各論の中から事務管理・不当利得・不法行為という法定債権における諸問題を学習する。これにあたり、委任・代理制度、解除効果論、債務不履行による損害賠償制度など、法定債権のそれぞれと密接に関連する契約法上の諸制度もとりあげることで横断的理解を試みる。
毎回の授業において与えられた事例問題につき、事案を整理し、当事者であれば何を求め、それに対し法律はどういった制度を用意しているのかを探し出すとともに、当該制度の要件に照らして事例を検討することで何が問題となるのかを発見し、それについて判例・学説を踏まえて説得的な論理を展開できるようになることを目的とする。
到達目標Goal
法定債権に関する事例問題を検討するにあたり、討論や対話を通して、具体的事案の解決にあたっての法的な分析能力や思考能力を養成することを目標とする。より具体的には、法定債権の各制度の趣旨を正確に理解できること、基礎知識を応用して紛争を解決するための法律構成を展開できること、問題解決に至る推論過程を論理的に表現できるようになることを到達目標とする。
この授業を履修することで学部等のディプロマポリシーに示されたどの能力を習得することができるか(該当授業科目と学位授与方針に明示された学習成果との関連)Which item of the diploma policy will be obtained by taking this class?
ディプロマポリシーのうち、「DP1」と「DP2」に関連
授業で使用する言語Default language used in class
日本語 / Japanese
授業の進め方と方法Method(s)(学期の途中で変更になる場合には、別途提示します。 /If the Method(s) is changed, we will announce the details of any changes. )
授業は、事前に指定した事例問題について学生が事前に事案を整理し、関連判例の調査・分析をしてきたことを前提に、双方向ないし多方向の議論を行いつつ進める。問題の発見能力や未知の問題について自ら一定の解決策を提示する力の修得には、一方的な講義を聴くだけでは不十分だからである。なお、論理的思考方法を習得するうえで特に重要であると考えられる事例については、レポートを課すことがある。提出された課題等に対しては、添削・返却をする。
アクティブラーニング(グループディスカッション、ディベート等)の実施Active learning in class (Group discussion, Debate.etc.)
あり / Yes
フィールドワーク(学外での実習等)の実施Fieldwork in class
なし / No
授業計画Schedule
※各回の授業形態は予定です。教員の指示に従ってください。
第1回:事務管理
テキスト41問/事務管理の成立要件を説明することができる。/事務管理の他人性および事務管理意思という要件における判例・通説の理解を説明することができる。/事務管理行為時に費用請求意思が不要であることを契約の場合と比較しながら説明することができる。/700条ただし書と702条3項の関係について説明することができる。/事務管理が成立しても事務管理者に当然に代理権が生じるわけではないことを判例を踏まえて説明することができる。
第2回:不当利得:給付利得
テキスト42問/703条の典型的適用場面がどのような場面であるのか説明することができる。/目的物の性状に関する錯誤があった場合の民法における処理につき論理を追って説明することができる。/給付利得については、民法改正により、703条・704条ではなく、121条の2により規律され、相手方の原状を回復する義務が課せられていることを説明できる。/双務契約の双方の債務が履行済みであった場合における双方の原状回復義務は同時履行となること、また利息や果実・使用利益の返還についても545条2項や3項と比較しながら論じることができる。/買主のもとで受領物が滅失した場合のリスク配分につき、通説的見解を条文に則して理解し、具体的な買主の義務を説明することができる。/また、買主が負う価値賠償義務の内容についても近時の議論を理解して説明することができる。
第3回:不当利得:侵害利得
テキスト43問/193条と194条につき、その適用場面と適用結果を説明することができる。/侵害利得による返還請求権と物権的請求権との関係を整理して説明することができる。/不当利得返還請求の相手方が、対価を負担してその物を取得した後にその物を転売した場合において、返還義務の範囲をどのように考えるか、複数の考え方が成り立ちうることを理解したうえで、自らの立場を論理的に展開できる。/不当利得者が、受領物の売却に際し、自己の才覚等により客観的価値を超える利得を手にしたとき、利得の吐き出しをさせるべきか否かにつき、法定債権の各制度の役割を理解しつつ論じることができる。
第4回:不当利得:転用物訴権
テキスト44問/契約関係の相対性から転用物訴権が例外であることを説明することができる。/転用物訴権をめぐる判例の変遷を説明することができる。/転用物訴権が不当利得のどの要件のもとで議論されるものかを説明することができる。/限定肯定説(判例・多数説か)と一口にいっても、法律上の原因(対価性)の有無に関する判断をめぐって様々に結論が分かれうることを理解し、説明することができる。
第5回:不法行為の成立要件:過失・因果関係
テキスト46問/一般の不法行為(709条)の成立要件を条文から抽出し、それぞれの要件についての判例・通説による理解を説明することができる。/その中でも、過失については、結果回避義務違反とされることを踏まえ、具体的事例の中で具体的に義務違反を指摘することができる。/因果関係および損害についても、判例・学説の理解を自ら説明することができる。/医療事故において問われる医療水準につき、判例の立場を説明することができる。
第6回:不法行為の成立要件:権利侵害
テキスト45問/建物取得者が当該取得建物に多数の瑕疵を発見した場合において、建物の設計者・施工者・工事監督者に対し、修補費用相当額の損害賠償請求をする場合の問題点を指摘することができる。/この場合における被侵害権利・法益をどのように捉えるべきか説明することができる。/この場合に不法行為による損害賠償請求を認めることが、契約法におけるリスク配分と評価矛盾しないかという観点から分析し、その妥当性を検討することができる。/より具体的には、契約法では、売主あるいは請負人の追完権が指摘されるところ、不法行為による損害賠償の場合にこれをどう処遇すべきかという問題を認識し、自らの理解を説明することができる。
第7回:不法行為責任の効果:人身侵害
テキスト47問/賠償されるべき損害について、差額説と損害事実説とが実際にどのような事例において差が生じるか説明し、判例の立場を説明することができる。/被害者が死亡した場合の損害賠償請求権についての判例の理解を説明することができる。/逸失利益の実務的取扱いを簡単に説明することができる。/後遺障害による逸失利益の定期金賠償を認める最高裁判決の論理を説明することができる。/近親者固有の慰謝料請求に関する判例の理解を説明することができる。
第8回:過失相殺
テキスト49問/過失相殺能力、被害者側の過失論、被害者の素因についての判例の立場を説明することができる。/被害者側の過失論では、幼児飛び出し事例と夫婦自動車同乗事例とで、全く異なる機能を果たすことを説明することができる。/被害者の身体的素因について判例がどのような場合にこれを斟酌するのか、その理由とともに具体的に説明することができる。/債務不履行において債権者が損害を拡大させた事例における最高裁平成21年判決が、過失相殺でははく、416条の問題として処理した意味を説明することができる。
第9回:名誉棄損・プライバシー侵害
テキスト50問/名誉毀損とプライバシー侵害とでは、社会的評価の低下の要否や真実性が免責要件とされるかという点において差が生じることを説明することができる。/名誉毀損がなされたケースにおいて、判例が違法性ないし過失を否定する要件を説明することができる。/事実の摘示と意見ないし論評の表明とを区別する判例の基準を説明することができる。/以上の判例理論を前提に、事例における具体的事実を整理・分析し、結論づけることができる。/差止請求に関する判例の立場を説明することができる。
第10回:責任能力と監督義務者責任
テキスト51問/監督義務者責任につき、714条1項ただし書の監督義務と709条で想定される行為義務との関係につき、あり得る考え方を整理したうえで、近時の判例の考え方を説明することができる。/責任能力ある未成年者の親権者も、709条に基づいて責任を負いうることを理解し、この場合における親権者の監督義務をいかに解すべきか、判例を踏まえて自身の考えを説明することができる。/より具体的には、親権者はどこまでの監督義務を負うのか、様々な具体的事例を前提に論じることができる。
第11回:使用者責任
テキスト52問/被用者に責任能力がない場合に使用者責任が否定されて良いかという問題につき、理論面と具体的事例での帰結との双方から検討して、あるべき法理論を示すことができる。/「事業の執行について」という事業執行性の要件につき、判例の一般的基準をおさえるとともに、取引的不法行為だけでなく、事実的不法行為における判断をすることができる。/被害者に賠償した後の求償や逆求償における判例の立場を論理的に説明することができる。
第12回:工作物責任
テキスト53問/717条の基本的構造を説明することができる。/工作物の「瑕疵」についての客観説と結果回避義務違反説とが、どのような事例においていかなる差が生じるのか、説明することができる。/そのうえで、事例問題において適宜場合わけをしながら、瑕疵の有無を具体的に論じることができる。/709条責任を負う者もいる場合に717条の瑕疵の有無にどのような影響を及ぼすか、自らの理解を説明することができる。/所有権移転登記を未だ済ませていない前所有者が717条責任を負いうるか、負う場合にはどのような論理によって負うことが正当化されるかを説明することができる。/札幌ドーム事件における工作物責任の有無につき、自らの見解を説得的に述べることができる。
第13回:共同不法行為:関連共同性
テキスト54問/競合的不法行為とは区別される、共同不法行為責任の存在意義を説明することができる。/換言すれば、どのような場合に共同不法行為が成立すると理解すれば、709条とは別に719条を設けた目的が達成されるのか検討し、説明することができる。/719条の1項と2項との違いを説明することができる。/一定の関連性を有する複数の不法行為につき、関連性の強弱により減責を決する下級審裁判例について、その是非を論じることができる。
第14回:共同不法行為:過失相殺
テキスト55問/交通事故と医療過誤とが異時的に競合(時間的に連鎖)した場合における過失相殺のあり方を論じることができる。/共同不法行為の過失相殺に入る前に、最終的に生じた損害を交通事故の加害者に帰責することの是非を検討することができる。/共同不法行為における過失相殺にあたっては、①性質を異にする不法行為の異時的競合事例と、②同種の不法行為が場所と時間を同じくして競合した事例とで、過失相殺のあり方が異なりうることを説明することができる。/そのうえで、②において絶対的過失割合により過失相殺をすることが果たして妥当であるのか、判例を内在的かつ批判的に検討することができる。
授業時間外の学習(準備学習・復習・宿題等)Work to be done outside of class (preparation, etc.)
毎回の事例問題について、必ず事前に検討をしてから授業に臨む必要がある。また、時間が許せば、テキストの解説および参考判例まで目を通してくる方が有益である。授業では、討論の形で基礎知識を確認するほか、学生が解説を読んだだけでは理解しにくい部分を噛み砕いて説明し、実際の民事紛争を分析するうえで有益な形で知識を整理していくことになる。なお、自らの理解度を判断するために、事例問題に対する自らの解答案を文章化することも有益であり、推奨する。なお、本授業の準備学習・復習時間は各2時間を標準とする。
テキスト(教科書)Textbooks
千葉恵美子=潮見佳男=片山直也『Law Practice 民法Ⅱ【債権編】[第4版]』(商事法務・2018年)
参考書References
潮見佳男『基本講義 債権各論Ⅰ 契約法・事務管理・不当利得〔第3版〕』(新世社・2017年)
潮見佳男『基本講義 債権各論Ⅱ 不法行為法〔第3版〕』(新世社・2017年)
橋本佳幸ほか『LEGAL QUEST 民法Ⅴ 事務管理・不当利得・不法行為〔第2版〕』(有斐閣・2020年)
窪田充見=森田宏樹編『民法判例百選Ⅱ債権〔第8版〕』(有斐閣・2018年)
成績評価の方法と基準Grading criteria
授業期間中における評価(平常点)
①授業での質疑応答の内容 20%
②レポート課題 20%
期末における評価
定期試験 60%
学生の意見等からの気づきChanges following student comments
事例を正確に理解するため、時系列や関係図を板書することとする。また、各回の授業の最後には、その回のテーマにおいて修得しておくべき基礎知識や思考手順、思考方法などをまとめる時間を設けることにより、授業で扱った発展的議論が基礎知識とどのような関係にあるのかを整理し、記憶への定着を図りたい。