理工・生命科学部教養科目KLAC Course

本キャンパスの学生は将来、技術者として或るいは技術に関連する人材として、様々な倫理的問題に直面することが予想される。本授業は、さまざまな状況において発生する倫理的問題に取り組む能力を涵養するため、重要概念と事例に接し、理解を深めることを目的とする。

(1) 技術にまつわる倫理的問題にどのようなものがあるかを知る。
(2) 上記の倫理的諸問題に取り組むにあたって有用な概念や考え方について学ぶ。
(3) 上記の概念や考え方を用いて様々な事例を理解し論じる能力を身につける。

ディプロマポリシーのうち、「DP2」と「DP4」に関連

日本語 / Japanese

講師が準備したオリジナル・コンテンツ（スライドや配付資料）を用いて授業を行う。適宜、ビデオや動画を観てもらう。
また、毎回の授業の終わりに、リアクションペーパーに感想・意見・質問を記入し提出してもらう。重要なコメントや質問に対しては翌週に回答するなどして、双方向性を高める。

なし / No

なし / No

※各回の授業形態は予定です。教員の指示に従ってください。

第1週：ガイダンスおよびイントロダクション

授業の進め方、授業の目的・到達目標、成績評価方法などについて説明する。
また、イントロダクションとして、「倫理学とはどのようなものか」「なぜ技術(者)倫理なのか」といった基本事項について解説する。

第2週：スペースシャトル・チャレンジャー号事故とその教訓（１）

スペースシャトル・チャレンジャー号事故に関する社会学者 D. Vaughan による分析をベースとし、技術的・倫理的な教訓を学ぶ。

第3週：スペースシャトル・チャレンジャー号事故とその教訓（２）

「例外的状況」における権力関係の顕在化と、その対策としての専門職倫理規定および高信頼性組織について解説する。

第4週：立証責任と事前警戒原則 ― 水俣病を例に ―

事故や災害が起こるかメカニズムがよく分かっていない場合、事故・災害が発生する可能性を指摘することと、証拠を十分に揃えて立証するのとでは、費やす労力が全然違う。不確実な状況下における立証責任について、水俣病を例に引きつつ解説する。

第5週：ユニバーサル・デザイン ― 倫理を予めデザインに埋め込む ―

「ユニバーサル・デザイン」は、障害者にとっての障壁を撤廃するという倫理的・政治的意図を予めデザインに組み込むことを提案している。ユニバーサル・デザインの7原則と倫理性、ユニバーサル・デザインの事例、米国のユニバーサル・デザインと日本のバリアフリーデザインの違い、などについて学ぶ。

第6週：アーキテクチャーの権力

ユニバーサル・デザインと関連したトピックとして、「アーキテクチャの権力」について学ぶ。人工物のアーキテクチャに、人種差別などの政治的意図が埋め込まれていることがある。そのような事例を紹介しつつ、倫理的側面を考察する。

第7週：内部告発の指針

ある調査では、過去5年間に不正を知ったことがあったかという問いに対して、約20%の人が「あった」と答えている。つまり、学生諸君が将来就職して不正に遭遇する確率は思いのほか高い。そんなときのために、不正を告発するための指針や関連する制度や法令を学ぶ。

第8週：情報倫理（１）情報技術と著作権

情報技術は、最も変化の早い技術であり、それに対応する倫理学がまだ構築できていないのが現状である。従って、個々の問題ごとに倫理を考えていくしかない。今回は著作権の問題を扱い、瞬時に大量の情報を複製・伝達する技術の発達に対して、倫理(学)がどう対処できるかを検討する。

第9週：情報倫理（２）
「ウィキリークス」の教訓、表現の自由、情報公開

インターネットの発達は、表現の自由といった基本理念にも再検討を迫りつつある。ウィキリークスの事件を例にとり、情報化時代の倫理について考える。併せて、情報公開のあり方についても考察する。

第10週：生命倫理

iPS細胞や遺伝子治療技術の出現によって、生命科学は人間観を変えてしまう程の影響力を持つに至った。この分野でも、やはり、倫理学の構築は科学技術の発達に追いついていない。そうした現状について解説する。

第11週：環境倫理（１）

地球全体主義（地球有限主義）について学ぶ。すなわち、地球のリソースが有限であることと、環境負荷の影響関係がグローバル化していることについて学ぶ。

第12週：環境倫理（２）

世代間倫理（100年後・1万年後の環境に責任を持つか）、自然に生存権を認めるか、レオポルドの土地倫理、ほか。

第13週：環境倫理（３）
事例学習：「気候変動問題に関する科学的根拠、政治的事情および技術者倫理の観点からの吟味」

2015年12月、国連気候変動枠組条約の締約国がパリ協定を締結し、各国が温室効果ガス排出量の大胆な削減に取り組むことになった。気候変動の問題には、科学的根拠の信頼性、技術的実現可能性、政治的な事情、ESG投資等の倫理的制度といった諸要因が絡み合っており、環境倫理と技術者倫理の事例として興味深い。できるだけ正確かつ分かりやすく解説する。

第14週：技術者倫理教育の由来

そもそもなぜ「技術者倫理」のような科目が大学で講義されるようになったのか、本科目のルーツを解説する。

【本授業の準備・復習等の授業時間外学習は、4時間を標準とする】すでに説明したことは理解している前提で講義を進めていくので、授業が一回終わるたびに、次の授業回までによく復習をしておくこと。
授業中に、さらに進んで学習するための参考文献やウェブサイトを紹介する。学生の皆さんには、授業で興味をもったことや疑問に思ったことについて、自分で調べることを強く推奨する。

教科書は指定しない。

参考書はとくに指定しないが、必要に応じて参考になる文献やウェブサイトを授業中に紹介する。

平常点（30%）：毎回の授業の終了後にhoppiiに提出してもらうリアクションペーパーをもとに評価する。
中間レポート（20%）：身の周りにある、ユニバーサル・デザインとアーキテクチャの権力の事例を探し、レポートしてもらう。
期末試験（50%）：今学期講義した内容全般について筆記試験を行う。

アーキテクチャーの権力に関する授業で、事例の範囲を広げた（Webデザインやお店における展示の仕方など）が、中間レポートでそれらの事例を報告してくれた学生も複数おり、授業中に採り上げた甲斐があった。