国際文化研究科Graduate School of Intercultural Communications

　「多民族共生論Ⅱ」は、春学期と秋学期で学ぶ内容を変えている。
　春学期のⅡＡでは、朝鮮やアジアと関係の深い日本人個人に関する伝記的著作を読んで、アジアをめぐる近現代日本の思想や社会運動の潮流を振り返っている（秋学期のⅡＢは、在日朝鮮人をめぐる日本の多民族共生について考察）。
　ⅡAではこれまで、鶴見俊輔・和田春樹・石田雄・富山妙子・岡部伊都子・日高六郎・松本昌次・上田正昭・茨木のり子を扱ってきた。今年度は、黒川創による立派な伝記（大佛次郎賞受賞）が刊行されたことを踏まえ、哲学者で行動する知識人だった鶴見俊輔（1922～2015年）をあらためて取り上げたい。
①鶴見俊輔という一個人の歩んだ道や、その中で身につけた思想・ものの見方を知る
②鶴見俊輔や彼と関わりのあった他の人物を通して、近現代日本の社会・思想・文化などの潮流をたどる
③とくに、アジアとの関わりの中で、どのような社会運動・思想潮流があったかに着目する
④特定の個人に関する伝記的著作の中から追究すべき課題を見出し、調査・探求する
⑤これまでの各人の研究や関心に応じて、受講者相互間に有益な討論を成立させる

　上記「授業の概要と目的」にある各項目について、大学院修士課程の学生として求められるレベルに達することを目標とする。
　具体的には、歴史の中を生きる個人の伝記的記述を読むことを通して、日本近代史をアジアとの関わりの中で再検証するための契機をつかめるようにする。

ディプロマポリシーのうち，「DP2」と「DP3」の達成のために特に重要であり，「DP1」と「DP4」の達成のために重要である

日本語 / Japanese

　今回のテキストは、鶴見俊輔に関する評伝である。500頁に及ぶ大冊なので、1回につきほぼ50頁ずつのペースで読み進めていく。
　レポーターの報告と全員の討論により、ゼミのような形で進める。レポーターは、登場する人物や事件などの事象のうち、大切と思われる点や関心のある点を中心に事実調べをし、授業で議論すべき論点を提出すること。近年格段に検索が容易になった各種のデータベースを駆使し、関連する当時の新聞・雑誌記事などにも目配りをしながら、時代を実証的に再現するよう努めることが大事である。
　受講者数が少ない場合は、負担が極端に多くなることを避け、レポーター無しで進める回も設ける。
　また、関連する映像を観る回も、数回入れる。

※初回の授業は「対面」で実施します。指定の教室にお越しください。不可の方は、学習支援システムに仮登録の上、そこに書かれた指示に従ってください。

あり / Yes

なし / No

春学期

※各回の授業形態は予定です。教員の指示に従ってください。

第1回：導入（その1）

受講者各自の自己紹介、授業計画の解説、参考文献の紹介などのガイダンス

第2回：導入（その2）

年譜や各種新聞記事などを使いながら、鶴見俊輔の伝記的な事項をあらかじめ整理する

第3回：テキスト　第一章第一節～第二節

生い立ちと家族関係

第4回：テキスト　第一章第三節～第二章第二節

米国留学、佐野碩のこと

第5回：テキスト　第二章第三節～第二章第六節

日米開戦と「交換船」での帰国、応召

第6回：関連映像の上映①

鶴見俊輔の映像鑑賞①

第7回：テキスト　第三章第一節～第四節

戦後の出発、『思想の科学』の創刊

第8回：テキスト　第三章第五節～第七節

雑誌『思想の科学』での諸活動

第9回：テキスト　第四章第一節～第五節

六〇年安保闘争と「声なき声の会」、竹内好

第10回：関連映像の上映②

鶴見俊輔の映像鑑賞②

第11回：テキスト　第四章第六節～第一〇節

ベトナム戦争と「べ平連」の活動、韓国・朝鮮との関わり

第12回：テキスト　第五章第一節～第五節

民芸運動への関心

第13回：テキスト　第五章第六節～第九節

日高六郎、アジア女性基金、老いへの向き合い方

第14回：関連映像の上映③

鶴見俊輔以外の人物の映像を観て、まとめとする

　授業中に指示する関連文献の講読、関連映像視聴、関連箇所への訪問など。本授業の準備学習・復習時間は、各2時間を標準とする。

　黒川創『鶴見俊輔伝』（新潮社、2018年）

　以前この授業でテキストとした鶴見俊輔・上野千鶴子・小熊英二『戦争が遺したもの：鶴見俊輔に戦後世代が聞く』（新曜社、 2004年）をはじめ、膨大にある鶴見俊輔の著作。
　そのほか、本書のなかで登場する他の著述家たちの著書に、適宜あたってみること。

　レポーター時の報告30％、普段の授業への貢献度40％、学期末に提出する授業総括報告書30％を目安とし、総合的に判断する。

　例年、少人数の授業のため、「授業改善アンケート」非実施科目だが、私の授業では教員を含む参加者全員が、最後に自分なりの授業総括報告書を作成し共有化しており、それを次年度の授業改善に活かすよう努めている。
　近年、留学生の受講も増えてきたが、一般学生も留学生も、ともに意義を感じるような授業を目指したい。

　リモート授業になる場合は、PCと接続環境

＜専門領域＞
朝鮮近現代史、とくに在日朝鮮人（広義）の歴史や文化の研究
＜研究テーマ＞
在日朝鮮人の歴史や文化を、従来の「差別問題」という視角からでは抜け落ちてしまう諸側面も含めて、多面的に描き出し、新しい時代に合わせた等身大の在日像と、日本社会のあるべき姿を考察すること。そのために文献収集や聞き書きを行ない、これまで光が当てられなかったような個人の事例を数多く集めること。
＜主要研究業績＞
・「渡日初期の尹学準―密航・法政大学・帰国事業」（法政大学国際文化学部『異文化』第5号論文編、2004年）
・「短歌と在日朝鮮人―韓武夫を手がかりとして」（日本社会文学会『社会文学』第26号、2007年）
・「飯田・下伊那研修を意義あるものとするために―国際系学部の事前学習授業の実際から」（「学輪IIDA」機関誌『学輪』第2号、2016年）
＊詳細は、「学術データベース」をご参照のこと